実行委員長 内山 二郎
アートパラリンピックの作品公募は、98年8月から年末まで行われ、総数1153点の応募があった。入選103点(大賞3点、銀賞4点、銅賞5点を含む)については前回紹介した。
実行委員会には、当初から障害者の自己表現である作品に優劣をつけることについて異論があった。「1000点を超える選外作品を、『入選しませんでした』とそのまま返却していいのか」「優秀作品だけを展示するのは、アーパラの理念に反するのでは」……さまざまな議論の末、「心に響く一点」を選ぶ「街かど賞選者100人衆」を募ることが決まった。1月末、3回に分けて100人衆選考会を行い「街かど賞」318点が選ばれた。これらの作品は中央通りの店舗(約100店)、NTTトークラウンジ、郵便局ギャラリーサロン、街なかアートスペースなどに展示することになった。実行委員会のボランティアが一軒一軒の店舗や公共施設を訪ね、アーパラの主旨を説明し、展示スペースの提供を依頼した。その熱意に協力の輪が広がった。
アーパラ作品展、街かど賞のニュースは全国に紹介され取材が殺到した。読売新聞は、「……芸術とは何かという根源的な問いさえ投げかけてくる作品展」と称賛。墨書「がんばらない」は、「がんばるのが大好きな日本人に、肩の力を抜くことの大切さを考えさせてくれる」と朝日新聞「天声人語」で取り上げられた。
会期中、入選作品展の会場「長野県信濃美術館」を訪れた人は、北は北海道、南は沖縄、海外からも含めて約9000人を数え、関係者を驚かせた。芳名帳には「初めて見る作品群に衝撃を受けた」「心を奪われ、洗われ、何かが伝わってきた」といった感想がよせられた。
98アートパラリンピック報告書より
もう一つの取り組みは「街かどミュージアム」である。ABLE ART MOVEMENTを展開する『たんぽぽの家』による企画展「エイブル・アート in オリンピアード」が長野市大門町界隈のアートスペースで。さをりひろばの企画「ヴェリー・スぺシアル・アーツ(VSA)展」が、ながの東急シェルシェで。「障害者アートバンク原画展」が、平安堂MUSIC館で。かりがね学園風の工房の9人の仲間たちの「作品展」が、お茶ぐら「ゆいまある」で……と街は障害者アートで彩られた。
入選作品が飾られたショウウインドウの前に全国各地から乗りつけた障害者施設のバスが止まり、記念撮影をしたり、まちの人びとと親しく交流する様子がテレビで何度も放映された。入口の段差をなくしたり、車椅子が通れる動線を工夫する店舗もあった。
かくして3月1日から14日までのアーパラの期間中、長野の街の空気がほんの少し優しくなったように思えた。