美術家・中津川浩章さんが個展「線を解放する」を開催
信州の障がいのある人の表現とアール・ブリュットを掲げた「ザワメキアート」の審査員で、美術家、障がいがある人たちの表現活動のサポート、福祉施設のアート活動全体のディレクションなども行なっているアートディレクター、美術家の中津川浩章さんの個展「線を解放する」が開催されます。
『線を開放する』はコロナ禍の一年の中で描かれた絵画を展示されるそう。中津川さんからコメントをいただきました。
私はいつも閉じることによって開く人間の想像力について考えていました。自由に人と会いコミュニケーションの中から生まれるアート、逆に自由がなくさまざまに規制され制限された中から生まれる表現、私の作品は以前から後者の意味を考え、その可能性を探り制作を続けてきました。そして今回のcorona禍によってそのことがより明確になった気がします。
さまざまな制限の中での生活そしてそこから生まれてくる作品たち。そう!不自由だからこそ画面の中で線は自由を求め踊り、歌います。線は人間の思惑からも意味からも解き放たれ、そこに「在る」だけになります。描き直しができない一回性の技法によって即興的に一気呵成に描かれるからこそ未知なものを迎え入れることができ、描くことは偶然を必然に変える魔法となるのです。生成りの綿キャンバスにバイオレットだけで描かれた100号サイズから小作品まで、そして紙に描いたドローイングなど20点くらいを展示する予定です。
また、中津川さんと交流のある作家の田口ランディさんもコメントを寄せていらっしゃいます。
描くことの根源に向かう力
中津川浩章の作品の特徴はその即興性にある。描く時、彼は完結を目指す。絵筆をもって一本の線を描き始めた瞬間、全身全霊で一気に描きあげる。思考は停止する。動いているのは野生の感覚だ。線は生きもののように躍動する。深い潜在意識の中から釣り上げた魚のように、そのいのちを帯びた線たちは泳ぎ回る。
なにが生まれてくるかはわからない。予感だけがある。中津川の作品は、ことば以前の「気配」を刺激する。人がことばを発する前に体に生まれるうずき、言語化されずに消えていく精神の気泡。ことばは、なにかを指し示してしまう。だからたくさんのものを、わたしたちはことばによって失っている。ことば以前の線のなかに、色のついたロマンチックな情動はない。その代わりに生まれたての生命のような、恐ろしいまでにピュアな、衝動が感じられる。それは、自然界の精霊のようであり、人間界の悪霊のようでもある。神話の世界がそこにある。
作家 田口ランディ
日程:2021年5月26日(水)〜6月6日(日)
会場:櫻木画廊(東京都台東区上野桜木2-15-1)
開館時間:11:00〜18:30(最終日は17:30まで)※月・火曜休廊