NPO法人リベルテのアートイベント「ちくわがうらがえる」は、あるべき未来を迎えにいく意志のこと

上田市柳町に拠点を置く、NPO法人リベルテでは、2020年11月1日~30日にアートイベント『ちくわがうらがえる−あなたの世界が世界をかえる−』を実施しました。リベルテさんでは、障害のある利用者をメンバーと呼び、「何気ない自由」を尊重し合える社会や関係づくりを目指しています。『ちくわがうらがえる』は、これからの彼らにどんなヒントをもたらしたのでしょうか。代表理事の武捨和貴さんに話を聞きました。

ちくわがうらがえるは思いのほか大きな催しになりましたね。

武捨さん 2020年夏から新しい拠点としてゆっくり準備していたroji(ろじ)という一軒家を使ったメンバーの作品やグッズ、リベルテのイベントの展示。メンバーのS.S.G.さんがつくった石膏粘土の昆虫を町歩きしながら探す昆虫採集展。soin cafeさんで行った石合昌史さんの展示。「そろそろコロナ」というトークイベント。千野菓子店さんがつくってくださった猫をモチーフにしたお菓子。あとはモッシュという上小圏域障害者自立支援協議会の権利擁護委員会の人たちとチームをつくり、障がいのある人もない人も関われるイベントを通じ、障がいのある人も暮らしやすい地域づくりを目指す取り組みなど、いろいろ行いましたね。

実際やり終えてみていかがでしたか?

武捨さん 大変でした(笑)。でも「ちくわがうらがえる」というテーマに基づいて、スタッフやメンバーさんが抱いている感覚や関係性が変わるとか、価値観が変わるとか、そういったコンセプトを立てた展示会がメンバーとできるんだということが実感できたのはシンプルに良かったと思っています。同時に地域の方々、普段からリベルテを知ってくださっている方々に向けて、“施設の外”というものを意識した企画を展開できたことも良かったですね。今までは内向きに「なぜイベントをやるんだろう」と理由を求めていたのですが、メンバーの作品やこれまでリベルテがやってきたイベント自体を展示会やアートイベントとして見てもらえることができたとは思います。あとはいろんな人を巻き込めたというか、気づいたら広がっていって、記録集にまで反映できたのもすごく良かったです。

武捨さんは周囲の人びとを上手に巻き込みますよね。

武捨さん いえいえ、皆さんに甘えて広げ過ぎちゃいました。助成金が取れたこともあって意図的に大きくやったんですけど、そうでなくても「一緒にやりたい」「一緒にやってもいいよ」とおっしゃってくださる方々がこんなにもたくさんいるんだとわかったことがうれしいです。アートイベントをやったからこそ改めて可視化されたというか。福祉の現場って、現場をすごく大事にして、プライドを持って運営しているんです。けれど知らず知らずのうちに「現場」をケアしている場のこと、つまり施設のことだと思い込んでいた気がします。でも『ちくわがうらがえる』をやったことで、自分の現場がどこにあるのか考える機会になりました。僕にとって自分たちの現場は、メンバーが生活している地域や生きていきたい場所なんだ、と。年明けぐらいから、『ちくわがうらがえる』の記録集ができてきたくらいから言語化できるようになりました。以前は福祉施設にいろいろな人を集めたいという思いがあったんですけど、別に集めなくても、通ってくれているメンバーが生活をしているところを現場として強く意識化すればいいだけなんです。

常々感じていたのは、上田市内のお店やスペースに、リベルテのメンバーさんの作品があふれていて、でも作品が一人歩きするのではなく、しっかりメンバーさんの顔が見えるのと同時に、お店やスペースの皆さんともつながっていることでした。施設にこもるのではなく、リベルテが街ににじみ出ている感じというか。

武捨さん ありがとうございます。アートの話ではありませんが、福祉が制度だけを指すのではなく、「福」「祉」も幸せを指す文字である通り、より生活に根ざしたものとしてあったほうがいいと思うんです。そして施設の中で起こっている出来事を外に持っていったときに、どう成り立つのか。地域の人や社会の人に対して、施設だからじゃなく、利用者さん一人ひとりが「こういう生き方だから」「こうやってサバイブしてきた」ということを僕らが発信することでこそ、もっと可能性が広がるように思います。僕らが、障がいがあって福祉施設にやってくる人たちと関わり続けている理由はそこにあるのかなと。施設の外側にアトリエでの日々や出来事を広げるのは、支援者だけではできない、メンバーと一緒だからできることです。それを福祉制度や専門の言葉だけでしか言い表せないのは良くないと思っています。もうすでに生きている人がいて、そこに作品もアートも生活もあることを発信していけたらいいなと思いますね。

「障がい者は障がい者である」という文脈を僕らが変えていかなければいけない

「ちくわがうらがえる」というタイトルに関しては改めてどう感じますか?

武捨さん でき上がった記録集を読み返し、その中に書かれている感想を読んでいて、改めて自分で振り返ったときに思い出したのが、映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』だったんです。「バック・トゥ・ザ・フューチャー」って日本語に訳すと「未来へ戻れ!」じゃないですか。「ちくわがうらがえる」をそういう文脈で考えていた気がします。僕らが今いる現実はまだうらがえっていないから、あるべき未来に向かって取り戻しにいく、迎えにいく意志の話かなと。

なんかめちゃくちゃかっこいいですね。

武捨さん これ、恥ずかしすぎて誰にも言ってないんですけど(笑)。僕自身、自分の人生や家族についていろいろ複雑なことがあったけど、そこに居続けなればいけないわけでも戻るのでもなく、どうなるかわからない未来に対して、無責任に、ポジティブにうらがえっていくんだという意志の方が大事だということを、「ちくわがうらがえる」という言葉に例えて言いたかったんだと思うんです。つまりメンバーやスタッフがこれから過ごしていく意志の方が断然重要であり、そう思って人が生きていきたこと、これからのことを肯定したかったのかもしれません。

「うらがえる」という言い回しが、何かこれからを予見させるニュアンスの入った言葉なのが絶妙ですよね。

武捨さん スタッフが言ってくれたんですけど、僕らが裏返すわけではなくて、「ちくわが主語なのもいいね」と。つまり物事が、そうであるべきという状態からズレていかれるというか。「それはそうである」ということを伝えることもアートの役割ですけど、福祉の考えからすると支援対象として「障がい者は障がい者である」という文脈を僕らが変えていかないといけないと思っているんです。未来に向かっていくときに、支援の意味や「障がいがある」ということが今現在のものから変わってくる可能性があると思います。そうすると福祉の意味も変わらざるを得ないし、支援を商売にしている僕らも変わっていかなければなりません。

『ちくわがうらがえる』にはそうした期待が込められていただわけですね!

武捨さん はい。今回トークイベントに参加してくれたのきしたNPO法人場作りネットの元島生さん、京都のNPO法人スウィングの木ノ戸昌幸さんもそうですが、制度や専門家の言葉で自分たちの仕事や生き方を言い表さないように気をつけている人が、僕の周りには多いんです。でもそれはとても難しいことで、自覚的に今の日本の社会や福祉の状況、制度について、そして関わっている人、一人ひとりがどう生きているか知らないと簡単に間違えちゃう。だから同時にそのことをどうしたらいいのかを考えたりしますね。
 そういう意味では場作りネットやほかの福祉の現場でどう生きる選択に多様性を広げようとしている団体や個人、今リベルテも参加している上田市でコロナをきっかけに誕生した、新しいつながりを作る試み「のきした」の動きとか、すごく参考になるし、ああいう取り組みが広がっていけばいいと思います。自分たちのことを省みたときに制度によって成り立っているんだけど、その外側があると仮定したときに、どうしたら「うらがえる」のかを考え、リベルテとして取り組んでいかないとダメだと考えています。

とても興味深いお話です。

武捨さん 個人としても法人としても、そういうことを意識して活動していこうという気持ちがあります。制度の中で施設を運営することが、障がい者を支援する「支援者主体」の語り方になってしまうのは避けたいですね。僕は楽しくイベントをやっているだけなんです。例えばメンバーが家で絵を描いていて、その場所が街の中のアトリエに広がり、展示会に出せる、という傍らに居続けられるからそう感じています。メンバーによっては手芸でもいいし、読書でもいいし、昼寝でもいい。リベルテで出会える人、一人ひとりに違う多様な生き方や存在のあり方に触れられること、そこにイベントをやる意味があると思っています。

今後の展開についてどのようにお考えですか?

武捨さん 5月22日から1週間、リベルテの引っ越しの様子をメンバーとスタッフがインスタントカメラ50台近くを使って記録した写真展を企画してます。2021年はrojiでのガーデニングのイベントも『ちくわがうらがえる』にしていこうかなと思っています。去年はアートフェスっぽくやったものを今年はリベルテのメイン・コンセプトとしてメンバーとスタッフの日々の活動として日常化していくようにと思っています。
 今年からリベルテが3拠点に分かれるので、そうやってイベントにすることで、メンバーさんも地域の中に自然と入り込んでいけるし、メンバーさんがいる場所が中心になって、うらがえっていく出来事が増えればいいと思っています。

記録集「ちくわがうらがえる」はリベルテで購入できます。

NPO法人リベルテ
上田市中央西1丁目9-5
Tel. 0268-75-7883(代表)
https://npo-liberte.org/