演劇やダンスを楽しめる放課後等デイサービス「プレイハウスつみき」オープン
伊那市在住の井口萌さんが、この5月から、上伊那郡箕輪町に障がいのある子どもたちと演劇やダンスなどを楽しめる放課後等デイサービスを開設します。自身も舞台俳優を目指した経験のある井口さんに想いを伺いました。
井口さんが演劇と出会ったのはどんなきっかけがあったのですか?
井口さん 僕はもともと身体が弱かったので、スポーツの部活は無理だということで、演劇をやってみようかということで、中学で演劇部に入ったんです。同時に駒ヶ根の市民ミュージカルにも参加させていただいて、そこから演劇が楽しくなって、ずっと続けてきた感じですね。本番で舞台に立つと、やっぱり日常にはない感覚が味わえるのが面白かったのかもしれません。また中学の部活だけだったら同世代としか関わりませんが、市民ミュージカルだといろんな世代の方と交流できたのも面白かったですね。実は、東京で演劇を目指した時期もあったそうですね。
井口さん (北村総一朗さんもいた)劇団昴の演劇学校に通っていました。強く俳優になりたいと思っていたというよりは、漠然と、という感じでした。ただ演劇学校を終えるタイミングで準劇団員になれなかったので、そのままバイトをしつつ東京で暮らしていときにくも膜下出血で倒れてしまったんです。それがきっかけで実家に戻ってきました。今から15年ほど前のことで、今はもう体調は万全です。それはよかったです。こちらに戻ってきてからはどんなお仕事をされていたのでしょう。
井口さん 体調も良くなり子どもと関わる仕事を探していたところ、知り合いから、みらい福祉会さんで人を募集しているということでお世話になりました。父が養護学校や特別支援学級で教師をやっていて、昔から休日の親子イベントなどにも一緒に参加して遊んだりしていたので、福祉の現場は身近だったんです。2年ほどアルバイトをしたころ、障がい者生活自律サポートの事業所 NPO法人CoCoの理事長をしていた父の勧めもあり、本格的に福祉施設で働くようになりました。CoCoは自閉症や知的な遅れのある利用者さんが多いところでした。ただ35歳になって新しい挑戦をしてみたくなり、仕事を辞めたんです。その少し前にCoCoの中でミュージカル部を始めたんですよ。それは高校生の利用者さんが、僕が演劇をやっていたことを知っていて、「台本を書いたから一緒に演じてほしい」と言ってくれたのが始まりでした。2、3回練習して、CoCo内の発表会で上演したんですけど、それが面白かったから、ほかの利用者さんにもお声がけして、1年に1回発表するというスタイルで継続してきたんです。そこには仕事を辞めてからもボランティアとして関わってきました。井口さんはそこで気づきがあったのですか?
井口さん 利用者さんに何か能力的な変化が出てきたというよりは、やっていることが楽しいからということです。その中から役者を目指したいとか、小学校の支援学級に通っていた子が中学になってから演劇部に入ってみたいとか、自分のやりたいことの一つに演劇とか表現が加わっていったことは大きな変化かなと思います。井口さんは現場では関わり方をされているわけですか?
井口さん 僕が何かを指導するのではなく、楽しく、一緒につくっていくというやり方です。演劇って生産性があるわけじゃない。じゃあなぜ苦労して続けているのかと言えば、CoCoでは今まで感じられなかったことを一緒に体験してもらえることが面白く、大事だと思いました。職員も利用者さん一緒に楽しみながら
それがいよいよ自ら事業所を構えて演劇をやろうという動きにつながったと。
井口さん ここは「つみきの家」と言って、障害がある方の親御さんたちが使っていて、月に1回、子どもと大人で一緒にご飯をつくったりして過ごす場所でした。僕らがここをお借りするにあたり、「つみき」の名前をそのまま使わせていただき、「プレイハウスつみき」とさせていただきました。1〜3月はDIYで稽古場の床張り作業をし、4月にでき上がったばかりなんです。ここではどんなことをされるんですか?
井口さん 放課後の時間を使って舞台の作品づくりをメインに据えたいと思っています。最初にストレッチをして、少し体を動かしたらワークショップみたいなことをやって、作品づくりをするみたいに考えてはいます。ただ自閉症の方で、少し症状が重い方だと簡単にはできないと思うので、実際はご本人たちに合わせてやっていこうと思っています。また人によって表現できるものが違うと思うので、ダンス、演劇という舞台表現だけではなく映像作品などの活動も視野に入れています。今のところ中高生を主な対象としているんですけど、その年代は養護学校の寄宿舎に入っていたりするので、毎日やって来るというよりは、この曜日にという感じになってしまうでしょう。ですから具体的にガッチリとしたプログラムがあるというよりは、まずは顔を合わせてみて、みんなと相談しながら楽しく進めていこうと思っています。健常者さんも参加できたりは?
井口さん そういう方がいらっしゃれば、ぜひ。実は今度、箕輪町文化センター付属 劇団 歩の飯島岱先生が『夕鶴』を上演されるんですけど、ここに通ってくるみなさんも一緒に参加してみないかとおっしゃっていただきました。利用者さんが参加してみたいということであれば、いきなり初舞台ですけど、導入としてとりあえず舞台を踏んでみるのもいいかもしれません。ありがたいお話です。スタッフの方々はいかがですか?
井口さん 常勤の方がお一人、パートの方がお二人、そして僕という体制でスタートします。常勤は保育士として働かれていた方、パートは特別支援教育について学校で学び、ご自身はダンスをやっていた方と高校時代に演劇部に入っていた方です。「プレイハウスつみき」がどんな場になったらと思っていらっしゃいますか?
井口さん 僕は駒ヶ根の市民ミュージカルに参加してきたと申し上げましたが、もちろん演技指導をしてくれる方、演出家の方がいらしたんですけど、教えられて何かをするというよりは自分たちで考えながらつくるという場所でした。ここも、職員には児童指導員という名称がつくんですけど、指導云々ではなく、一緒に表現をする、職員も利用者さんも同じラインに立って活動していく場所にしていきたい。ゆくゆくは一年に二作品つくりたいと思っていますが、地産地消じゃないですけど、自分たちでつくって自分たちで楽しむみたいな感じでいいんじゃないかと思っています。